これから向かう街には、馴染みの宿と馴染みの店があると言う。
聞いただけで、なんとなく、ものすごーくイヤな予感がして、ナルトは目を細めた。
「その宿がのォ、たびたびですまんのだが……その、いわゆる、連れ込み宿ってヤツでのォ……」
自来也は、幾分決まり悪そうではあったが、しかし、どうにも口角が上がるのを隠し切れてはいなかった。
「えー……? またぁ?」
その場で地面にめり込んでしまいたくなるほど、がっくりと落ち込んでしまう。
人目を避け山中深くを移動しながら、修業に明け暮れる日々が続いていた。その合い間に旅糧の補給のため町へ降りるのは、二人にとって丁度良い息抜きであり楽しみであり、宿泊先はその重要なファクターだ。
が、ナルトの旅の相方は、残念ながら度々その宿選びにいらぬ趣味を発揮した。
「オレ、やだってばよ……」
「まぁそう言うな」
「普通の旅館とか民宿とかねーの? 自炊のところの方がまだマシだってばよ」
文句を言っても、もう自来也の中では決まっているのだろう。どうせ泊まらなければならないのなら、無駄だと分かっていても言いたいことは言っておかなくては。
「この辺りの普通の宿屋はどうも商売下手でのォ、居心地が悪くてワシは好かん。が、今から行く宿はなかなかのもんだ。部屋もサービスも料理も保証する」
「や、そーゆー問題じゃねーし」
「頼むからそう嫌がってくれるな」
「だってオレってば、そろそろお年頃の健全な青少年なのに……。おっさんと二人でラブホとか普通だったら絶対ノーセンキューだってばよ……」
「ワシだって堂々と男を連れ込む気はねーよ」
「えー……」
暗に要求されて、大きな溜息が出てしまう。
「のォ、ナルト」
ものすごい猫撫で声だ。デレデレだ。口説き落として連れ込む気満々の。
「このまえの、ふわふわっとしたかわいいのがあっただろ。ワシはあれがええのォ」
頭痛がしてくる。この変態師匠、どうしてくれよう。
自来也は当然のようにナルトの荷物を取り上げる。
「……」
仕方なく、変化の印を結んだ。
「これのこと?」
ぼんっと白い煙を盛大に立てて、得意の変化を披露する。
おいろけの術の全裸バージョンは、威力は絶大だが、双方、早々に飽きてしまっていて、ナルトは最近、着衣バージョンをいくつか披露して見せていた。
この白いレースをあしらったキャミソールにふわふわシフォンのワンピースを重ねるコーディネートは、前に通りかかった街で見かけた女の子が着ていたものをそのまま写し取っただけなのだが、一度やってみせたら、相手にはひどく好評だった。
「そう、それだ!」
「じゃあ、これでどう?」
細いミュールとビーズの小さなバッグ、手足の爪とツインテールの結目を飾って完成させる。
「おおっ! かわええのォ……。お前、ホントに天才だのォ!」
「まーたこの術ばっか褒めるしさぁ」
「拗ねるなって。しかし惜しい、実に惜しいぞナルト」
「なにが?」
「これでお前にもうちょっとでも女物の下着の知識があったら、完璧なんだがのォ」
「オレがそんなのに詳しかったらおかしいじゃねーか……」
「その姿で、ランジェリーショップにでも入って、少し勉強してきてらどうだ」
「なっ! ムチャ言うなってば! そんなとこ行けるか!」
「この格好なら問題無く入れるだろうが。ワシとしては羨ましいのォ」
「もー絶対嫌だからな! どうしてそんなに変態でスケベでやらしいんだってばよ! このエロ仙人!」
「はぁ、もう毎日言われ慣れてしまって、痛くも痒くも無いわ」
「くっそおおぉぉお! サイテーだ!」
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