地の果ての見たこともない夢 ...... 06
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 目が覚めると、時計の針は既に午後の時間を指していた。
(あー……、寝過ぎた。八、九時間かぁ……)
 趣味の悪い布団の中から這いずり出て、身体を起こす。
 さすがに、怠い。
 そろそろと手足に力を入れ、背を捻ってあちこちの具合を確かめた。
 無理な姿勢を長時間取らされ、用途通りとは言え弱い粘膜を酷使されたのだ。どこかに痛みが残っていてもおかしくないのだが、足腰の筋肉痛も、腰骨の奥のひりひりした痛みも、感じない。
 厳しい修行での疲れや怪我は、程度が酷ければ、いくら治りが早いと言っても、丸一日かそれ以上掛かることもある。
 あれだけ強烈な快さが伴えば回復も早いのかもしれない、と惚けた頭で考えた。
 変化も、解けていなかった。かなり長い時間ぐっすりと眠ったと思うのだが、持続時間の最長記録を更新しているような気がする。いっそこのまま過ごし続けて、限界を確かめてみようか。
 もつれた髪に手をやって、溜息を吐いた。
 元の姿に戻れば、これの手入れをしないで済む。このままで過ごすなら、もう一度洗って乾かさなければならない。……すごく面倒そうで、ナルトにとってはかなりハードルが高い挑戦のようにも思えた。加えて、女の子の身体では普段の修業も出来ない。
 眠気が抜けきれない頭で、ゆっくりと思いを巡らす。髪に触れる指先が、ごわごわと妙な感じに固まっている部分を感じ取った。きっとところどころにローションがついたまま乾いてしまったに違いない。
 よろりと立ち上がり、ナルトは再び風呂へ向かった。一日ぐらいはやってやろうじゃないか、とおかしな方向にやる気が出た。


 念入りに身体を洗い直し、ゆっくりと温まって風呂を上がる。怠さは消え、気分は格段に上向いた。
 丁寧に髪の水分を拭う。全身を乾かしながら鏡を見た。今日は髪を結ぶのはやめて、このままでいようと思った。一息つくと、猛烈な空腹が襲ってくる。
 ようやく師匠の姿を探す気になった。隣の部屋から気配はしていたが、この姿のままの手前、どんな表情で顔を合わせていいの分からなかった。相手に対する甘い余韻は完全に抜け切ってはおらず、ともすればまた傍へ寄って行ってしまいそうな自分を、ナルトは良く分かっている。
 あれだけ構ってもらったのに、まだ足りないのだ。いつまでも触れ合っていたい。どれだけ甘ったれなんだろうと自分に辟易してしまう。
 しかし正気に戻った今、そんな気分を引き摺っているわけにはいかない。庭を見れば天気は上々、さわやかな風が吹く昼間だ。
 切り替えなければ。
 書斎を覗き込むと、文机に向かう背中からは、真剣な気配が漂っていた。集中して、一心不乱に書き進めている最中だ。肩と腕の動きを観察して確かめた。
 こういう時は、無駄に話し掛けない方がいい。邪魔をしても双方にとって良いことは何も無いのを、ナルトは経験で知っている。特に、良いイメージやアイデアが浮かんだ瞬間などを邪魔しようものなら、悲惨だ。烈火のごとく怒り出し、とんだ八つ当たりを受ける。
 どうしよう。
 外に行こうか。それが最良の選択に思えた。
 しばらく考えて、寝室へ戻り、脱がされた服を手に取った。いつのまにかきちんとたたまれていたので、それに着替えることにした。
 再び書斎へ向かう。
「起きたか」
 まるで後ろに目がついているかのようなタイミングで声を掛けられ、ナルトは息を細めた。
「おはよ。ねーエロ仙人、もう朝飯食った?」
「ああ、さっきな」
 予想通り、振り向くこともなく、言葉少なな返事が返ってくる。
「そっか。オレ、外で食べてきていい?」
「おう」
「じゃ、行ってくんね」
 若干多めに小銭を取り出して、出口に向かう。
「ナルト」
 呼び止められた。振り返ると、自来也はこちらへ身体をひねり、何か小さなものを投げて寄こす。
 ぱし、と手の平で受け取って、握った手を開いて見ると、それは部屋の鍵だった。
「え、いいの?」
「二つ借りた。ゆっくりしてこい」
「ふーん、行ってきます」
 万年筆を持ったままの手がおざなりに挙がって、行って来いと言うように、ゆらゆらと揺れる。
 それを目の端で確認して、ナルトは扉を閉めた。










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