「お、オレ、謝んねぇ。エロ仙人が、悪いんだってば」
「ああ、分かった。もう夜遊びには行かない」
するとナルトは一瞬、ピタリと息を止め、こちらを見上げるような身動きをした。が、顔が上向く前に、
「で、出来もしねー約束、すんじゃねー!」
と掠れた声を荒げ、再び頑なに蹲ってしまう。腹筋を引きつらせて、しゃくり上げる。
言い返され、自来也はがっくりと肩を落とした。溜息が出る。
その傍らにあぐらをかき、やれやれと天井を仰いだ。
確かに説得力は皆無だと思う。己の今までの振る舞いを、ナルトも自分も承知し過ぎるほど承知していた。
「お前をそんなふうに泣かせてまで行くほどのところでもねーって話だ」
「……そ、んなの、知るかよ……」
途切れ途切れに反論しつつも、本音を吐き出して気が済んできたのか、だんだんと呼吸は落ち着いてくる。何とか嗚咽を飲み、時々深呼吸しようとしては、失敗して息を震わせた。
自来也は頃合いを見計らって再び身体に手を伸ばす。
今度は抵抗されなかった。
普段無造作に引き寄せる時には遠慮なくその胸や内股に手を掛けているが、今はいらぬ刺激を与えて気分を害することがないよう、細心の注意を払いながら抱え上げる。膝の上に乗せた。
「のォ、ナルト。機嫌を直せ。ワシが悪かった」
最大限の譲歩を耳にして、ようやくナルトは伏せがちだった視線をおずおずと上げる。
「ホントに……行かない?」
「ああ」
ナルトは小さく息をついた。その腕の中に囲われて、凝り固まった全身の力はゆっくりと抜けてゆく。
そのまま完全に寄りかかっても、びくともしない腕に囲われて、目の前の温かな胸に身を預けた。
気持ちが通じた、という安堵感がナルトの体内にゆっくりと広がった。言って良かった。自分はやはり、この人を独り占めしたいらしい。期限付きであっても、今、独占している、ということが最も重要なのだと感じた。
そして相手は、そんな些細な我が儘すら嗅ぎ分けて、叶えようとする。
何で……対等じゃないなんて思ったんだろう。この人はいつだって、こうしてナルトの目の高さまで降りてきて、ナルトの細々とした言い分を隅々まで掬い取ってくれるのに。
肩口にこつんと額を預けた。
静かに目を瞑り、呟く。ところが自分の口から転がり出た感想は、
「でもさ……でもさぁ、……そんなんエロ仙人じゃねーって気もするってばよ……」
と言う、とても可愛くない愚痴だった。
「お前のォ、一体どっちなんだ」
呆れたような師匠の声が降ってくると同時に、ぐに、と太い指で両頬を掴まれてしまう。
「いでっ」
涙でごわごわに強張った頬の皮を、ムギュムギュと揉み解された。
「い、いだいってばよ! なにすんだっ!」
「もう少し聞いておきたいことがある。あの写真は何だ」
「……あ!」
すっかり忘れていた、とナルトはテーブルを振り返る。どこに置いたかもはっきり覚えていなかったが、それはそこにあった。
「見た?」
「見た」
「あ、あれはさー……ホントに行って調べて来たんだってばよ。エロ仙人があんまりオレが物を知らな過ぎるみてーに言うから」
「どこに行った?」
「……」
そこの下着屋に、と小声になって俯く。
改めて事の顛末を述べるとなると、ものすごく恥ずかしい。ナルトは写真を撮ることになった経緯を渋々と話した。
「お店の人たちの役に立ったしさ、喜んでくれたから、いいかなって……」
「構わんが、本当に店のカタログだけだろうな」
自来也はテーブルへと手を伸ばし、写真の束を引き寄せた。
一枚ずつつぶさに検分し始める。
どの写真も、思わず頬が緩んでしまうほどの可憐さだ。上手く撮れている。色とりどりで、きわどくて、ポースも絶妙。申し分ない。本職のモデルでも、これほど完璧な美貌と肢体はそうそうないだろう、と感心する。
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