二人の宿はすぐ近くだった。あっという間に奥の部屋へ辿りつく。
「キャバクラ、行ったんじゃねぇの?」
「行った」
自来也は否定しない。答えは簡潔で投げやりだった。
「……朝まで帰らないコースだと思ったってばよ」
「勝手に決めつけるな」
振り向きざま、腕を掴む。軽い身体を、強引に中へと引き入れた。
ピシャリと閉めた扉のすぐ横、手首をとらえたまま壁に押し付けた。
拘束した相手を見下ろす。ようやくその顔をまともに覗き込んだ。
ナルトは怯えながらもこちらを見上げ、おずおずと視線を合わせてくる。
見つかってはまずいことをしたという自覚はあるようだ。まったく、この姿だとそんな上目遣いですらたまらなく様になっていて、余計に憎たらしくなった。
昨晩の乱れ様を思い出す。責め苦に疲れ果てても、どんなに眠くても、この切なく縋る指は離れなかった。
それなのに。
「他の男に興味が湧いたか」
「……っ!」
目を瞠って息を飲み、次の瞬間、ナルトは叫んだ。
「ちが……っ、そんなんじゃ、ねーってばっ!」
必死な瞳の訴えは真剣で、それは自来也が良く知っているナルトの反応だった。
「確かに自由にしていいとワシは言ったがのォ、だからって何をしてもいいわけじゃねーだろ。無防備過ぎだ。迂闊にも程がある」
少しきつめの言葉を重ねて、厳しく叱る。
この子の自主性を大事にしていた。束縛するつもりはなかった。
が、こんなことになるなら、話は別だ。とても許せたものではない。監督者としても容認するべきではなかったし、それだけでは説明出来ない感情が湧いたことも認めなくてはならない。自来也はそんな自分の判断に、まったく遠慮しなかった。
捕まえる力を緩めずに、低く、宣言する。
「今までは制限する必要もないと思っていたが、今決めた。ナルト、この姿で今後、他の人間に近付くのは禁止する。この旅の間は許さん」
「……!!」
打たれたように目を瞠る相手を、冷たく見下ろした。
「分かったな」
念を押す。
手を離すと、その子はそのままずるずると床に崩れ落ちた。一瞥をくれてから、わざと突き放すように顔を背け、部屋の奥へと向かった。
投げ出されたまま、隣の部屋へと消えてゆく姿を、ナルトは呆然と見送った。
時計を見る。相手の不在にショックを受けて部屋を飛び出してから、およそ二時間弱。
それしか経っていないのか。
ずっと……思っていたよりもずっと早く、この人は帰って来たのだ。探して、迎えにまで来てくれた。
どうせ朝帰りに決まってるというのは単なる思い込みで、とんでもない間違いだった。
少々辛くても我慢して待つべきだった。そうすればこんなことにはならなかった。これが我慢できなかった自分への罰なのか。
その上、
(この旅の間はって、言った)
聞き間違いではない。今、その口から、はっきりと。それはナルトの胸の内だけの勝手な決めごとだと思っていた期限が、二人の間で初めて音になった瞬間だった。
(エロ仙人も、そう思ってたの?)
(そんで、オレが他の人といると、怒るの? 面白くなくて、気に入らない?)
ただ、悪いことをしたから叱った、という雰囲気とは、明らかに違う。ナルトはそれを敏感に感じ取っていた。
震えは全身に及び、止まらなくなった。相手にも、自分に対して独占欲があったのか。せめて許された期間の内だけは誰よりも近くありたいと願い、割り込む他人には嫉妬するような、そんな気持ちが、彼の中にも、もし、少しでも存在するなら。
それは、ナルトにとっては大きな新発見だった。
ふらふらと立ち上がる。
(……言わなきゃ)
気が動転しているせいか、足に上手く力が入らない。書斎へ移動した自来也の後を追うが、足が縺れて敷居につまずく。
畳に手膝をつき、それでも見慣れた背中を視界に入れた途端、口は自然に開いた。
「……そういう、大事なことは、もっと早く言えよ!」
堰を切ったように声が溢れ出る。
「言われてたら、我慢できた。ちゃんと部屋で待ってた。外にも行かなかったし、ナンパなんかについていかなかったってば!」
頭に血が上った。言葉にしてみれば、まぎれもなくこれが本心なのだと思える。止まらない。
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