地の果ての見たこともない夢 ...... 07
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 旅は折り返し地点を過ぎ、自来也とナルトの足取りは自然に帰路へと向かいつつあった。
 と言っても、来た道をそのまま引き返すわけではない。大きく弧を描くように方向を変えながら、さらにまた見知らぬ国へ、道無き山河へと足をみ入れてゆく。
 ナルトの修行の仕上がりも順調だ。
 特に体術の伸びには、目覚ましいものがあった。
 苦無で他の武器、忍刀や忍槍使いを相手にする場合の格闘術において、ナルトは抜群のセンスを発揮し、自来也を唸らせた。
 脚力もついた。
 跳躍力や持久力が付き、一日当たりの移動距離、距離当たりのスピードが大幅に向上したので、旅程の自由度も増した。
 旅を始めた頃は、山中で他里の忍たちが使うルートを横切るのにも気を使ったが、最近は、姿を見られたり気配を悟られたりする心配もない。
 里で大人の忍たちと行動を共にするのに、何の不足も無いレベルだ。
 忍術も、それらの長所を生かし発展させる方向性で、現在はナルトの戦闘スタイルの基軸となる影分身と変化の術の組み合わせを、重点的に特訓している。
 人物は勿論、草木や岩、家具など何でも精巧に模する器用さは、既に様々な潜伏シーンで充分使える域に達している。が、最大の課題は、分身たちが本体と同等に変化出来るかどうかだ。可能になれば、用途の幅は無限に広がり、戦闘時に生かすことが出来るようになれば更に強力な武器になる。
 その果てしない可能性を追い求めて、ナルトは納得が行くまで地道な修練に明け暮れ、没頭した。


 残るは、九尾のチャクラのコントロールだけだったが、これは諸事情により途中で頓挫したままだ。
 ナルトが自我を失うのを食い止める方法が、見当たらなかった。
 現時点でのナルトの力では……いや、もう少し封印の仕組みを解明してみないことには、どうにもならない。ほぼお手上げ状態だった。

 
 そういうわけで、最近のナルトは、一日の大半の時間を自主練に費やしている。
 ある程度、弟子から手が離れることになった自来也の関心は、もっぱら執筆中の作品へと向けられていた。
 旅が終わるまでに書き上げる予定でいた原稿が、いまいち進んでいないのが気に掛かっている。
 いや、もう、遅れている、という表現では生ぬるくなってきた。こんなスローペースでは、とてもじゃないが出版社に連絡は取れない。
 これはまずい。少し集中して急がなければ。
 やはり、一人で旅をしながら書くのとは勝手が違う、と認めるしかなかった。
 作家としての矜持に掛けて、連れのせいにするつもりはないのだが、あの可愛くて煩くて、一人前に強がるくせに寂しがり屋の弟子が、健気に努力する姿がそばにあれば、どうしても意識の大半はそちらへ持っていかれてしまう。


 昨夜のナルトは、どんなに長々と行為を続けても嫌がらなかった。しつこい、と逃げ出されてもおかしくないほど執拗だったと思うのだが、もういっぱいだ、とか、充分足りた、と言うようなことを、あの子が口にすることは、とうとうなかった。
 欠乏の根深さを感じる。
 心の求めに、成長した身体がついてこれるようになったのは、悪いことではないと思う。しかし身体を満足させ、幸せな夜の記憶を積み上げるぐらいでは、あの子が幼少期に経験した寂しさは、そう簡単には埋まるはずがない。
 分かっていても、こんなことをしてしまうのは……。
 結局のところ、今の自分はあの子に夢中なのだ、と自来也は結論付ける。ぼんやりと思索に耽れば、どうしてもナルトのことばかり考えてしまう、この状態を他にどんな言葉で表せばいいだろう。


 思い起こせば、出会った頃のナルトは、何かにつけ構ってもらおうと必死だった。体当たりで自来也を欲しがった。
 見るからに生き難そうだった。あの子は常に切羽詰まった焦りに急き立てられるように、何に対しても我武者羅だった。
 旅に出て、互いを独占する環境を手に入れてからは、自来也は出来得る限りでナルトの思慕に応え、ナルトも強がることなく素直に自来也を頼っていた。
 比べれば、少しずつではあったが、情緒は安定してきているように見える。
 自分の傍にいれば、ナルトは虚勢を張る必要もないし、感情を剥き出しにして自己主張する必要もない。
 打ちのめされたように悄然とした、やりきれない表情を垣間見せることも、減った。
 ……減ったと信じたかった。









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