地の果ての見たこともない夢 ...... 15
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「対等じゃないけど……それほど辛いってことはあんまりなかったから、気付かなかったってばよ」
「なんで? きみがそういう境遇で、相手の素行に口出ししにくいって分かってて堂々と遊びに行くなんて。最悪じゃないか」
 非難の言葉が胸に刺さった。
 言われてみれば、確かにそうなのかもしれない。
「たぶん、向こうはオレが他の女の人にヤキモチ焼くなんて、思ってねぇ。こんなこと知ったら、驚くと思う」
「きみが怒ってるって、知らないってこと?」
 ナルトは頷いた。
「それは良くないよ。ちゃんと言った方がいい」
「そこまで……そんな、束縛みたいなこと、言えねぇよ。今まで考えたこともなかったし」
「どうして」
「オレ達、今、旅してるんだってば。普段は二人きりだから、独り占めしたいなんて思う必要もねーの。でも、街に来ればやっぱ大人には大人の付き合いがあるしさ。そんなのいちいち文句言うのも煩いだろ? 今までは平気だったし……。でも今日は、何だか知らねぇけど、急にすげー悔しくなったんだってば……」
「そういうことか、なるほどねー」
 納得したように男は腕組みする。
 やはり今の自分の立場は、誰の目から見ても不遇な扱いを受けているように見えるのだろうか。
 一時でも怒りを受け止めてくれる相手を得たと思って、調子に乗って喋ってはみたが、こんな形で同情されて、途端にみじめな気分になってしまう。
「宿に帰りたくないんだ」
「……向こうだって、どうせ朝まで帰ってこないってばよ……」
 肩を落として俯くと、男は慌てた。
「ああ、泣くなよ」
「泣いてねぇ」
「じゃあ何か、甘いものでも食べる? クリームあんみつとか」
「え、いいの?」
 現金なもので、ぱっと顔が上がる。
「いいよ、好き?」
「うん、オレそういうの大好き!」
 笑顔を見せると、相手も安心したように笑った。


 面白くないことは忘れて、こっちも楽しく遊んでやればいい、と言われ、それもそうだと思う。
 男は酒と肴を注文して飲み始め、ナルトは旅先の面白い話を聞かせ、男はこの街で来月催される祭りの様子やその準備のことなどを話した。会話はそこそこ弾み、土地の料理や初めて口にするよう飲み物を追加で御馳走され、ナルトの気分もだいぶ良くなった。
 やがて、次へ移ろうと言って、二人は席を立った。
 次の店って、もう一軒飲み屋かな。そんなわけねーよな……などと考えながら歩く。街角の電飾は猥雑でありながら、どこか幻想的だ。知らない町の風景の中を行きずりの男と歩くのは、不思議な体験だった。何だかふわふわとしたいい気分になってくる。
 予想通り、相手の足が向いたのはその手の宿が立ち並ぶ一角だった。やっぱり連れ込まれるのか、と、一気に現実に返ってげんなりした。
 いつの間にか、腰に手を回されて並んで歩いていた。
 どうしよう。短時間とは言え仲良く過ごした相手だ。断って振りほどくのは気まずい。逃げるのは簡単だが、話を聞いてもらった上に、色々と奢られた手前、期待されている清算を反故にするのは卑怯な感じがする。正直、初対面の相手と会って話して寝るだけって、どういう感じなんだろう、という興味もあった。
 が、でもやっぱり嫌だ、どう考えたってやめるべきだ、と、正気で冷静な自分がいるのもまた事実。
 そんなことを考えながら後に続いて路地を曲がると、突然目の前に見上げるような大男が立ち塞がった。
 あっと思った時には、連れの男は一撃で地面に張り倒されていた。そのまま呻き声を上げ、意識を失ってしまう。
「な……っ!」
 咄嗟の判断で脇へ飛び退いたナルトは、瞬時に状況を把握した。
「やり過ぎだってばよエロ仙人! 何も気絶するまで殴ることねーじゃねーか!」
「お前、こんなところで……自分が何をしているのか分かっているのか」
 地を這うような低い声だった。
 尋常でない怒りを感じ取り、ナルトは竦み上がった。









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