地の果ての見たこともない夢 ...... 08
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 ナルトとのやりとりは、飽きることがない。
 高く、低く、時には裏返って元気に跳ね返るあの声と、意欲に満ち溢れて透き通った言葉は、自来也の中に長い年月を掛けて沈殿した、彩り豊かな想いを揺り起こし、呼び覚ます。
 想像世界と登場人物たちを構築する字句が、撹拌された思索からゆるゆると紡ぎ出され、筆は快調に進んでいた。
 少し眠っただけで目が覚めてしまい、朝からすっきりと頭が冴えているので、ずっと書き続けている。
 昼時はとうに過ぎ、日が傾き始めても、弟子は帰ってこなかった。
 あの子は、自由な時間を与えると、その余暇をとても上手に活用する。初めて足を踏み入れたこの街で、何か珍しいものでもを発見したのだろうか。もしかしたら、旅先ならではの新しい出会いに恵まれて、羽を伸ばしているのかもしれない。
 ナルトの周りには、自然に人が集まる。誰があの子を放っておくものか。それが彼本来の姿だ。
 そういった経験のためなら、修行を一日二日ぐらい休んだって決して損ではない、と自来也は考えていた。
「……ワシも息抜きに行くとするかのォ……」
 日が暮れたら、自分も気分転換に出掛けよう、と思った。今書いている場面の展開も、ちょうど刺激に富んだ会話が欲しい頃合いだ。久し振りにネタ拾いだの取材だの称して、漫ろ遊びに興じてみようか。
 夕刻までには、まだ時間がある。
「あと少し、頑張るとするか」
 呟いて、再びペンを取り上げた。


 外に出たナルトは、歓楽街を駆け抜け、繁華街へと向かった。
 宿の周辺一帯は、同じ業態の宿が立ち並ぶ、夜の街だ。
 歩を進めても、酒と会話と相手を提供する店から、怪しげなマッサージ屋、小劇場、専門用品のショップ……と、いかがわしい店ばかりが軒を連ねる。昨日話題になったようなランジェリーショップもあった。透ける素材の花柄やレースのインナーが並ぶ隣には、派手でマニアックな衣装やグッズの数々。そんな光景を尻目に、ナルトは気軽に入れそうな普通の飯屋を探して中央通りに出た。
 今日は、この姿を最大限に有効活用して過ごし、尚且つ好きなものしか食べない、と決めていた。
 さっそく「魂の醤油豚骨」という看板が目に入る。それは師匠が言っていた店とは違うようだが、この店にも入ってみたい。だが、自来也と約束した店には行くのは、今夜になるかもしれない。
 そうなると、ラーメンが二食続くことになる。ナルトは迷った。好物ばかりを食べるのは、むしろ旅先ならではの贅沢な感じがして、それも非常に心惹かれる。
 しかしその隣の店が「宇治金時ブラックホール盛り」のサインボードを出しているのに気付いて、興味はあっと言う間にそちらへ移った。
 結局、甘味屋に入ることにした。汁粉に饅頭、団子と生麩と最中。好き勝手に楽しむ。
 腹を満たすと、ナルトまた来た道を戻って行った。


 びっくりするほど可愛い子が店に入ってきた、とその店員は思った。
 背中に長く揺れる金髪は、蜂蜜を流したよう。すらりと白い手足は作り物のように整って、傷一つなくすべらかだ。その娘は、店頭のブラとショーツのセットの前で立ち竦んでいる。
「それは、昨日入荷したばかりなの。おすすめですよ」
 晴れ渡った空のように澄んだ青い双眸がぱっちりと大きく開き、こちらを見て瞬きをした。
「刺繍が大胆でしょう? ステンドグラスに描かれた花束をイメージしたデザインなんですよ。これからの季節にいかが?」
 薄桃色のサテン地に赤い薔薇があしらわれたそれを凝然と見つめてから、その子は伸ばし掛けた手をぎこちなくひっこめる。
 色違いの白を勧めてみた。
「あなたには、こっちの方が似合いそうね。肌が引き立ちますよ」
「……に、似合う、かな……?」
「鏡で見てみよっか?」
 前に当てて、鏡の前に立たせてみる。
「う……っ」
 途端にその子は、真っ赤になって固まってしまった。ああ、慣れてないのか、と思った。良く見れば、スタイルは抜群だが、まだ子供と言ってもおかしくないほど若い。
 それでも、わざわざこういう界隈のインナーショップに足を運んでくるからには、相応の目的があるのだろう。
 そういう客は多く、接客のコツも弁えている。









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