しかし釘をさしておくべきことは忘れなかった。
「あまり大勢の目につくのは抵抗あるのォ。広範囲の広告なんかに使わたりしなきゃいいが。まったく、無防備にもほどがある。今回は許すが、次からは絶対駄目だ」
ぶつぶつと小声で文句をつけた。
「これはワシが預かる」
「う、うん」
ナルトは頷いた。もちろんそのつもりで入手したものだ。
「オレすっげー詳しくなった。なぁ、エロ仙人はそん中から選ぶとしたら、どれが一番好み?」
再び肩口にこめかみを押し当て、さらに凭れ掛かかる。
そのつむじを見下ろすようにして、自来也は内心で唸った。
この子は一日中、こんなことを大真面目に考えながら過ごしていたのだろうか。そして、勢い込んで帰って来てみれば、目当ての相手は外出していたわけで。
なるほど、怒りが倍増して当然だ。
自分は最悪のタイミングで一番やってはいけないことをやらかしていたらしい。まさしく危機一髪だったのだ。
加えて、本人に自覚は無いようだが、膝の上で、このゆっくりとした喋り方と甘い声。
変化したナルトは、常に据え膳状態だが、特に今は五割増しと言ったところか。
こんな可愛いものを他人に渡してたまるかと思う。心底思う。
本当に危なかった……今更ながら、胸を撫で下ろす。
「もーさ、どんなリクエストでも何でも、どんと来いってばよー」
「そうだのォ」
誘われるまま、写真を眺めてじっくりと選考したいところではあったが、そこは堪えて。
「それよりも、だ。もう一つ。お前、酒飲んだな?」
「……へっ!?」
「自分じゃ気付いてねーかもしれんが、どう見ても酔っ払ってるぞ、未成年」
思い掛けない方向へ話が飛び、ナルトは目を見開いた。
「う、うそ……!」
「果汁にでも混ぜられたか」
そういえば頭の中に霞がかかったような、ぼうっとした感じが少し前からしていた。もしかして飲み物にアルコールが入っていたのだろうか。綺麗な色の果物で飾り付けられた、いかにも女の子が好きそうな甘い味のジュースだと思ったのだが。
口当たりが良くても強い酒は幾らでもある、と言われ、思い当たる節があり過ぎて、ナルトは言葉を失ってしまった。
「立ってみろ」
そう言えば、さっきは足が縺れて上手く立てなかった。案の定、平衡感覚はおかしくなっていて、立ち上がろうとしてもすぐにその場に膝をついてしまい、呆然とする。
自来也はナルトの首筋に手を当てて体温を確かめた。それから下瞼を親指で押し下げ、充血の度合いを見る。
「こりゃ、もしかしたら酒だけじゃねーかもしれんのォ。薬を盛られたか? 気分はどうだ」
「はぁっ? く……クスリっ!?」
それこそ気付きもしなかった。
気分は取り立てて悪くない。ふわふわと気分が良い感じがするだけだ。
「そんな……オレ、全然……」
しかし、一般人に酒や薬を飲まされて全く気付かないなんて、忍としてはとんでもない大失態じゃないのか。
ナルトは蒼褪める。
どんな薬かなんて怖くて聞けない。ああいう状況で飲まされるのがどんな類かは、薄々想像が付くけれども、中途半端な知識しか持ち合わせていなかった。それ以前に、ナルトは薬というもの自体に馴染みがない。怪我同様に、病気にも縁遠いからだ。
再び膝の上に引き戻され、抱え込まれて、ようやく作用らしき異常を自覚する。
確かに、いつもとは少し違うかもしれない。腕に囲われて感じる相手の体温の心地良さが、より直截的に、ダイレクトに下腹部に来る。そうと自覚した途端、身体の奥が熱を持ち、ぞわりと肌が泡立って腰が砕けた。
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