「エロ仙人が悪いんだからな! オレを、オレを置いて行くから……っ!」
気持ちが昂ぶって胸が痛い。喉が引き攣り、声が詰まった。泣きそうになる。
自来也は振り向いて変な顔をしていた。
ああ、驚いている。オレがこんなこと言い出すなんて、全く思いも寄らなかったんだろう。
「どうせ綺麗な姉ちゃんたちの方がいいんだろ? だったら最初からオレなんか相手にしなきゃいいのに! いつもはオレばっかなくせして、こーゆー店のある町に来た時ばっかり……こんなん、納得できるわけねぇ。自分は遊びに行っといて人には禁止なんて、おかしいってばよ。エロ仙人は、オレが……オレがどんな気持ちであんたの帰り待ってんのかなんて、考えたこともねーんだろ!」
「……ナルト、おまえ」
自来也は完全に向き直った。
一歩、踏み出すが、
「近寄んな!」
噛みつくような鋭い抗議が飛んでくる。
思わず身動きを止めた。
先程までのむかむかした腹立ちは、急激に収まってしまう。
いつも、執筆に集中し過ぎて構ってやらないでいると、ナルトは拗ねる。八つ当たりのように著作をけなし、作中のヒロインにやきもちを妬く。それ以前に、自分に修業をつけるためにもっと時間を使うべきだ、と正論で責め立てて来る。
それらは当然、現実の女性たちに対する嫉妬では全くなかった。
この子が覗き行為を非難し、キャバクラ通いに目くじらを立てるのは、年頃の少年らしい潔癖さ故の反発だと、ずっと思い込んでいた。
なぜなら自来也が、大人の男には様々な事情があって、お前ももう少し年齢が上がれば解るようになる、と諭せば、ナルトは不服ながらも、そういうものなのか、と反論を止めていたからだ。
それが二人のいつものやりとりだったのに、今日のこれはどうだ。普段のナルトが自分に向ける穏やかな思慕とは、かけ離れている。明らかに嫉妬だ。言い分を整理すれば、ナルトが知らない男について行ったのも、自分への当てつけだということになる。
こんなことは初めてだった。
そして自分自身も……。
この子に対してこんなにも強く独占欲を感じて、あまつさえ口にした。今までこういうことは殆んど無かった。
他の女のところに行くのをこれほど嫌がると知っていたら、無論、出掛けたりはしなかっただろう。
もう一度、慎重に近付く。
「こっちくるなってば……!」
完全に涙声だ。
それでも傍へ寄ってその身体に触れれば、ふにゃりと畳に蹲ってしまう。
「……うっ、……ぅ……っ」
声を殺して肩を震わせ、とうとう嗚咽を漏らし始めた。
ナルトの理不尽に対する怒りと、悔し涙。見るのは初めてではない。
ああ、ぬかった、と思う。こんなふうに泣かせるつもりなんて、まったくなかった。
伏せた顔を上げさせようと肩に手を掛けた。抱き寄せようとすれば嫌だ嫌だと抵抗し、じたばたと暴れる。
「触んなよ! こんなの……やだ……ぉ、オレじゃねぇみてー……」
「ナルト」
「オレ、ネタ探しに行くエロ仙人のことなんて、何とも思ってねぇ。そんなのいちいち邪魔して回るような、うぜー弟子は、いらねーってばよ」
「おまえ、そんなふうにずっと我慢してたのか?」
「べ、別に……っ! そんなんじゃ、ねぇってば……!」
「そこでいい子ぶって何になる。いつも本当のことを言えと言っているだろう」
「……い、いま」
「うん?」
俯いたまま、くぐもって途切れ途切れの酷い声になっていた。
「今、さっき……言った……」
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