地の果ての見たこともない夢 ...... 13
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 top






 ねぇ、何でオレのこと可愛がってくれるの。何か理由があるの? どうしてオレなの?
 例えばオレが、普通の家で育った、人と違うところのない子だったら、こんなふうに特別扱いしては貰えなかった?
 どうしたらこんな思いしなくて済むんだろう。オレ昨日、何かエロ仙人の気に入らないこと、やったかな。何にもしてーよな。むしろ気に入られたくて頑張り過ぎた。……だからかな?
 何で今、一緒にいてもらえないんだろう。


 思考は支離滅裂になってゆく。
 空転する感情が、胸を塞いで、痛い。


 ぼろぼろと涙がこぼれた。往来のど真ん中なのにそれは勝手に溢れ出て、急いで手の甲で拭っても、止めようがない。
「どうしたの? そんなに泣いて」
 可愛い顔が台無しだよ。差し出される手巾。
 足元を見れば、知らない足が見えた。男だ。こんな通りで女の子が独りでいれば、声を掛けられるのは当然だった。涙なんて、格好のきっかけだろう。
「道に迷ったかな。誰かとはぐれた?」
「……」
 この格好でいると、放っておかれることはまずない。ナルトはそれを知っていた。アカデミーで最初に習った頃から、変化の術だけは人並みに出来た。特に女の子に化けるのは、たくさん練習したので得意になった。
 最初、この変装は役に立つように思えた。自分の姿でなければ、いつもは近寄れない店に入って買い物が出来たからだ。誰もが普通に親切で、優しく声を掛けてくる。
 その落差。唖然とした。大人たちの態度の違いにすっかり嫌気が差して、姿を変えて里内を歩くのは、すぐにやめてしまった。
 里人に気付かれれば、術を悪用して周囲を騙している、と受け取られる惧れもあった。バレたらどんな吊るし上げを喰らうか知れたものではない。あの頃の自分は、していいイタズラとまずいイタズラを直感で選んでいた。
 下忍として任務に就くようになっても、里外でも、修行中の身でも、その辺りの基準は見極める必要があった。
 この人だって……と、ナルトは目の前の知らない足を見て考える。目の前の女の子が、本当は男だなんて、夢にも思わないだろう。騙しているのは否定できない。
 忍同士でなら単なる悪ふざけで話は終わるが、一般人に対して術を使う時は注意が必要だ。
 さっきのショップでも、任務以外で術を対価に金品を得るのは気が引けたから報酬は断った。喜んでもらえて役に立てたのだから、それでいい。研究目的という名分も一応成り立つし、少なくともあの写真を持ち帰れば、怒られることはないはずで、それどころか却って喜ぶに違いないとナルトは踏んでいて……。
 自分がどれほど自来也のためだけにこの術を使っているのか、唐突に思い当たって、その瞬間、ナルトの中で何かがプツリと切れた。
「ねぇ、何かよっぽど嫌なことがあったとか?」
「……うん」
 問い掛けに、ナルトは頷く。更に差し出された手巾を受け取った。
 ちらりと目を上げ値踏みする。
 悪くない。こういう界隈に似つかわしい服装をしているが、ごく普通の若い男だ。面倒なことになっても、いつでも逃げ出せそうではある。
 嫌なことがあったのか、と問われれば、とても嫌なことがあった。いや、その真っ最中と言うべきか。
 知らない誰かに聞かせるには丁度良すぎる怒りと不満が、今にも喉を飛び出しそうだった。


 時折見せる涙目の上目遣いが、あまりにも魅惑的だった。
 もう少しその青い色の瞳を見たいと思うのだが、腫れた瞼が恥ずかしいのか、じっくり鑑賞することはなかなか出来ない。
 声を掛けた女の子が予想より遙かに可愛いことに気付いて、一も二も無く手近な飲食店に連れ込んだ。飲み物を与えて落ち着かせ、まずは食事で釣ることにした。
 真っ白な肌。柔らかそうな腕。細い指。星を散りばめた華やかな爪をひらめかせながら、その娘は箸を握り猛烈な勢いで焼肉丼を平らげてゆく。
「オレが今付き合ってるヤツ、すげー女好きでさぁ。今も他の女の人と遊んでんの!」
 許せねぇってばよ! と怒り狂う。
 すごい食べっぷりと怒り方、そしてつっこみどころがありすぎる強烈な口癖。
 豪快さが圧倒するような魅力となって、目が離せない。その豊かに流れ落ちる綺麗な金髪へ触るために、どうご機嫌を取るべきかと男は策略を巡らせる。
「怒って当然だね。きみみたいに可愛い子を放っておくなんて、考えられないよ」
「だろ? だろ? そう思うよな! もーオレこんなに怒ったの初めてだってばよー」










禁・無断複写転載転用 リーストアルビータ