地の果ての見たこともない夢 ...... 14
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「初めて怒ったって、今までずっと我慢してたの?」
「え? あ、うーん……。そうかなぁ」
「相手が女好きって知ってて、付き合ってたってことだよね」
「今まではそういうの、口出しすることじゃねーって思ってたんだってば。オレ、その人に生活全部、面倒見てもらってる事情もあって、あんまり我が儘言えねぇっていうか……」
「あー援助交際かぁ」
 ナルトは目を見開いた。そう言えば、世の中にはそんな言葉があるのだった。
 そう表現されてしまうと、自分と自来也の関係がとてもいけないことのように聞こえる。いや、もちろん、あまり人には知られたくない、里の誰にも絶対気付かれてはならない、仲間たちにも秘密にして隠し通さねばなければならないほどには、いけないことではあるのだが。
「……その通りかもしんねー」
 とナルトは呟いた。
「オレってば、親いなくて、物心付いたかなぐらいのちっちぇー頃から、ずっと独りで暮らしててさ」
「ずっと? 親戚の家や施設じゃなくて?」
「いや、親戚もいねーし。孤児の子はオレ以外にもいたけれど、そういうのはなかったってばよ。学校はあったけど」
「じゃあ親が遺した家とか、財産があったとか……」
「全然。えっと、そう、村の長老の人が後見人でさ! 生活費とかはそこから出てたんだってば。そんで、学校出て働き始めて、自立もしてたんだけど、あの人がある日突然帰って来て、引き取ってくれることになったっていうか、一緒に居ることになって。オレすげー嬉しくて。そんで、大好きになっちゃったんだってば」
 本当は忍者の師弟だという所を全部すっとばして、わかりやすくざっくりと語れば、己の身の上はそんな感じであるらしい。
 喋りながら、可笑しくなってしまった。なんだか自分じゃないみたいだ。本当のことばかりなのに、作り話みたいに聞こえる。
 こんなふうに誰かに聞かせる機会はあまりない。相手が見ず知らずの人間だからできる話だ。
「そういう対等じゃない恋愛は辛いだろ」
 対等じゃない、と、言われた言葉をまた繰り返し呟いて、考え込む。
 確かに対等ではない。
 それまでは衣食住全てを独りで切り盛りしていたのに、この旅に出てからは、何から何まで大人の相手に頼ることになり、いきなり正反対の環境に放り込まれて戸惑うことも多かった。保護者に日々食べるものから所持金まで管理されるようになって、自由ではなくなって、決まりごとも拘束も増えた。
 しかし総じて楽になったことの方が多かったから、ナルトは反発することもなかった。
 所謂カラダの関係の方面でも、と考える。
 始まりは唐突だったと思う。寒気のする朝方に師匠の布団に引っ張り込まれて、人肌のぬくもりに不慣れなナルトが初めて経験する温かさに陶然となっているうちに、そういうことになってしまっていた。
 嫌ではなかったし、興味もあったから、抗う気など起きないうちに有無を言わさず犯された。
 教えられたのは熱烈に抱擁と、身体の深くの粘膜を絡み合わせて毛細血管を繋ぐような、際限のない甘え方だった。夢中になった。
 合意の上だったとは言え、されるがまま最初から最後まで相手のペースで、ほとんど強姦だったと言えなくもなかったが、それは大好きな、誰よりも信頼できる人の腕の中、世界のどこよりも安心できる場所での出来事だった。
 何より、そういう関係になってから自来也は格段にやさしくなった。身も心もぐっと距離が縮まって、ナルトは幸せだった。
 抱かれている間だけはいつもの自分の殻を破って、女の子や赤ん坊のように甘えられる。
 逆らえるわけがない。
 ずっと誰かにそうされたかったが、それまでのナルトには誰もしてくれなかったような、それまで機会に恵まれなかったあらゆることを、彼は全部してくれる。
 日々、このひとはオレのことが大好きなんだと実感する。
 それは今までにない感覚で、ナルトの精神の安定に大きな影響を及ぼした。
 そんな充実した日々が続いていることに、ついさっきまでは何の疑いも持っていなかったのに。









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