地の果ての見たこともない夢 ...... 16
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 久し振りに慣れ親しんだ雰囲気の中で、夜の会話と酒を楽しんだ。普段の相手が若過ぎる……と言うより殆どまだ子供、それ以前に本当は女でもないわけで。
 玄人の女たちが振り撒く色香や濃艶は、なかなか新鮮に感じられた。執筆のための気分転換としてはかなり有効だったと思う。
 しかし、長居する気にはなれなかった。
 もしかしたら腹を空かせて待っているかもしれない。自由にしろとは言ってあるが、気になってしまうのが本当のところで、彼は己の心に素直に従い、早めに店を出た。
 部屋に戻れば、酔いはすっかり冷めた。そこにナルトの姿が無かったからだ。
 こんな遅い時間まで、どこに行っているのか。一瞬肝が冷える。本人に逐一知らせてはいないが、ナルトの居場所は常に敵から捜索され、追跡されていた。ただここ何ヵ月かはその気配もまったくないので、油断気味であったことは否めない。
 素早く居場所を探れば、拍子抜けするほど近くに馴染みのチャクラは在った。最悪の事態ではないことに安堵する。
 迎えに出ようとして、ふと居間のテーブルの上に視線が止まった。
 見覚えのない紙束が無造作に重ね置かれている。
 手に取って見ると、それは十数枚に及ぶ写真だった。そこに写っているものを見て、自来也は目を剥いた。
「何だこれは」
 足取りも荒く部屋を飛び出す。目当ての姿はすぐに見つかった。
 愕然とする。知らない男に肩を抱かれて、歩いていた。


 しばらく観察するだけの冷静さはかろうじて保った。
 あの子はもしかして今日一日を、あの姿のままで過ごしていたのだろうか。そう考えるのが妥当のようだった。
(あのバカ、一体どういうつもりで)
 歩みも緩慢で、少しふらついている。酒を飲まされたのか。
 目を離すべきではなかった。自来也は深く後悔する。
 いつか飲み方を教えてやって、かわいく酔ったところを美味しく頂くような場面も、想像はしてみたりすることはあったが、まだ何年も先、もっと成長して、本当に成人してからだと思っていた。だって今のあの子は、旅館で食前に出されるような、ほんの少量の甘めの果実酒でさえも、にがい、と大騒ぎするくらいなのだ。
 ナルトの味覚は地の底を這うようなレベルだ。山中に何日も留まるような時は無理でも、機会があれば出来るだけまともな食事をさせるよう心掛け、同時に自炊を仕込むなど、偏食を矯正するのにも現在進行形で四苦八苦しているところなのに。
 加えて、世間のルールからの逸脱を嫌う、真面目な性格と来ている。
 あの警戒心の強い子に、どうやって取り入ったのか。旺盛な好奇心を刺激されたか。飲み食いを共にするほど油断させるなんて。だいたいナルトも何故、知らない相手に気を許しているのだろう。
 見ている猶予もなさそうだ。二人は、そのまま辺りの宿に入ってしまいそうな雰囲気だった。
 髪まで触らせている。今日はツインテールに結い上げていない、あの長い金髪を無防備に揺らして。
 自来也は躊躇も覚えなかった。確認も何もせず、見ず知らずの人間へ容赦ない制裁を加えた。
 憤怒のまま、ぶん殴っていた。


 彼はそうやって速やかに弟子を取り戻したが、
「なんにも。……エロ仙人が怒るようなこと、オレ、何もしてないってば」
 稚い声は震えていた。
 目を合わせる気にもなれなかった。
「話は帰ってから聞く」
 問答無用とばかりに背を向けて歩き出す。
 ナルトは地面に倒れ伏した男と、いきなり現れた師匠を交互に見比べたが、やがてその背中が足早に遠ざかってゆくことに気付き、慌てて追い縋った。
「……エロ仙人、オレのこと、探したの?」
 つかえつかえ問えば。
「当たり前だ。心配掛けおって」
 答える言葉はいつも通り優しかったが、声はこれ以上になく冷やかで、凍りつくような不機嫌さが感じ取れた。









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