地の果ての見たこともない夢 ...... 11
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 脳裏に閃いたのは、この街に入る前に交わした会話だった。
 馴染みの宿だけでなく馴染みの店もある、と言われたのを卒然と思い出したのだ。
「そ、か」
 少し落ち着いて考えれば、意外に思うほどのことでもない。だから鍵を渡されたのか、と腑に落ちた。
 旅を旅して、ひとところに落ち着くことのない人生を送る人だ。巡る町々に彼ならではの遊び場がある。
 取材だと嘯きながら、楽しんでいるに違いない。そういう人だと最初からよく知っているじゃないか。きっと作品を書き進めるためにも必要なことなのだろう。いちいち目くじらを立てていたら、身が持たない。
 第一、大人同士の付き合いで、プライベートだ。昨晩のように時として底知れぬ精力を見せるような人が抱える事情は、自分のような子供が推し量るべきものではないのかもしれない。まだ知らなくていい世界なんて幾らでもある。口など挟めるはずもなかった。


 いつもそうしているように、仕方のない人だ、と、割り切れるはずだった。
 なのに今、この瞬間、自分は。


 ものすごい勢いで噴出する感情に、ナルトは愕然と身を強張らせている。
 何でこんなみじめな思いをしなければならないのだろう。
 今夜は一緒に夕飯を食べるのだと、なんの疑いも無く思い込んでいた。
「……ばかみてー……」
 写真の束をばさっとテーブルの上に投げ出し、その場に崩れるようにうずくまる。
「あーもー、こんなのいつものことだってばよ! しょーがねーなー……」
 強がって声に出して、どうにもならない憤りを発散しようと試みた。
 が、今日に限って上手くいかない。
 身体の深いところから湧いてくる強い怒りと恨みに引き摺られて、ナルトは身動き一つできなくなった。
 落ち着け、と自分を宥める。こんなの、どうってことない。ないがしろにされるなんて、小さい頃は当たり前だったじゃないか。いつのまに、贅沢になったものだ。
 しかし他でもない自来也から、自分にそんな贅沢を覚えさせ、一人前に大人の相手をする方法を教えた張本人から、こういう扱いを受けることが、堪らなくやりきれなかった。まったく我慢がならない、許し難いことのように思える。くらくらするほど腹立たしい。
 せり上がる悲しみに喉が詰まり、鼻の奥がつんと苦しくなった。
 泣くのか。こんなことで自分は。
 ああ、人を好きになるのは、なんて厄介で、辛くて、疲れるんだろう。
 誰かを独り占めしたい、そばに繋ぎ止めておきたい、と欲が出るたびに、どうしても上手くいかなくなる。一生自分には不可能なのかという気分になる。
 それでも、好きにならずにはいられない……。ずっと誰かを好きになりたかったのに、誰にも相手にされなかった頃に比べれは、遙かにましだった。
 今は、遠く離れて恋しく思う相手が、ナルトには何人もいる。そして、つきっきりで自分だけを見ていてくれる人ができた。一緒に食事をする相手だ。ここで大人しく待っていれば、そのうち必ず戻ってくる。当たり前のような顔をして、酔っ払って帰ってくるだろう。珍しいことでもなんでもない。


(ここで待っていれば……)
 無理だ、と、ナルトは震撼する。
 この部屋。以前にも誰かを連れ込んだことがあるからこそ、使い慣れていると言えるのだろう、ここで。
 もし朝まで戻ってこなかったらどうするつもりだ。滅多にないこととは言え、万が一でも、そんな結果を突きつけられたら……きっと気が狂ってしまう。
 今日ばかりは耐えられそうにないと思った。
 こんなに強く嫉妬するのは、きっと初めてだ。
(行かないで欲しかったってばよ)
(オレがいるのに、なんで)
 正直な心の声を認め、不慣れな感情を持て余す。
 どんなに精巧に模してはみても、見知らぬ女たち相手だったら発散できて、自分ではもの足りない何かがきっとあるのだと思うと、悔しくてならない。身を焼くような痛みが胸を刺し、胃がキリキリと縮み上がる。不快感は後から後から湧いてきた。
 まさか、こんな気持ちになるなんて。
 しばらく蹲っていたが、いつまでもそうしている訳にもいかず、ナルトはのろのろと身を起こす。
(ここでこうしてても、辛いだけだ)
(……もう一度、外、行こう)
 それ以外に、解決策が見つからなかった。









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