地の果ての見たこともない夢 ...... 12
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 黄昏の紫が空を包み、派手なネオンが夜の街を煌びやかに彩り始める。俗っぽくて魅惑的な光に引き寄せられるように、街角には人が溢れ始めた。
 界隈を、ふらふらと歩く。捜し人は一体どの店に入ったのか。今頃、美女を侍らせ酒に酔って談笑に興じているのか、よもや昨晩のナルトの身体だけでは飽き足らず、風俗にまで足を伸ばす、なんてことはないだろうけれど。
 などと考え始めると、むかむかと込み上げる腹立ちは、どうにも収まらない。
 もし自分が本当の彼女だったら、店に押し入ってこの人はオレのだと喚いて連れ戻せるのだろうか、と想像し、出来るわけがない、と絶望した。きゅう、と胃が痛くなり、涙が滲みそうになった。
 そして思う。そもそもあの人には、弟子に手を出す云々以前に、本命の女性がいるのだ。それが、この関係が旅が終わるまでの期間限定のものだと、ナルトが心密かに決めている理由の一つだった。
 あんなに信頼し合っていて、両想いというわけではない。とっくの昔に振って振られた仲だと、二人とも言っていた。今までの距離感や関係を壊したくないんだろう。
 彼は常に外から故郷を護る。広範囲に及ぶ情報網で敵の動きを追い、牽制し、本気で戦ったらどれほど強いのかナルトには推し量りようもないその実力と、自里だけではなく忍界全体を見据える深慮で、木ノ葉からあらゆる危機を遠ざけていた。
 どんなに離れていても、里を想う心は……里に残り里を預かる同胞への想いは尽きない。自来也の周りには常に里の空気があった。いつもナルトを包む懐かしい故郷の匂い。その放浪人生の向こう側に広がる、昔の……自分が生まれる前の木ノ葉の里の景色。時々、ぽつり、ぽつりと零すように語る、三忍が若かった頃の話を聞くのが、ナルトは何よりも好きだった。
 見知らぬ大勢の先輩たち、三代目のことや、四代目の話。もっと聞きたいと思っても、彼が自ら口にする以上のことを聞かせて欲しいとせがむのは、暗い時代の、その胸の内に降り積もる喪失や傷心を思えば、かなり難しくて。
 毎日一緒にいれば、どうしてたって感じ取れてしまう。
 どんなに長い間、綱手のことを想っているか。どれほど大蛇丸のこと、今でもずっと考え続けているか。三人一組で育つということはそういうことなんだ。
 ねぇ、三人で育って戦って戦って歳を取るってどんな感じ? 三人のうち一人が欠けてしまったらどのくらい辛い? どうしたらそうならずにすむの? ああ、でも、自分たちもすでにそうなってしまったのかもしれない。
 これから、どうなるんだろう。誓った通り諦めずにいられるだろうか。早く、帰りたい。帰ってサクラに会いたい。もう一度サスケを連れ戻しに行きたい。もっと強くならなければ。そして早く自来也と綱手を安心させて、カカシ先生と一緒に前線に出て戦って、それから……。
 焦燥は常に、じりじりとナルトを急き立てる。
 大丈夫、大丈夫、焦るな、と、いつももどかしさを宥めていた。だってこんなに凄い人が、今は自分だけを見てくれているのだから。大事に手元に置いて、護ってもらって、毎日様々に、大事なものを、浴びるほど与えられて。
 自分ではなかなか実感出来ないけれど、ちゃんと進歩して成長出来ているはず。
 信じてついていけばいい。


 それでも足りなかった。
 それが本音だ。最後に心の中から出てくるのは、結局自分の弱さと貪欲さだった。
 今だけだと思えば、我慢する理由なんて見当たらない。もっともっとくれたっていいじゃないかと思う。ただ、そばにいたいだけだ。本当は、もっとずっと近くにいたかった。離れたくない。とにかく欲しくてたまらない。
 それだけだ。
(それなのに、オレ、今、独りで、)
(なぁバァちゃん。あの人、オレのこと置いて、他の女の人と遊んでんの。ひどいと思わねぇ?)


 あの嫌な真っ暗闇が。蓋をした深層から這い出してくる。
 もう、周りの誰のことも疑いたくないのに。
 少し放置されただけで、これだ。
 つきっきりで子供の面倒を見るのは、そんな大変なことに手間暇を掛けるのは、やはりこの腹に封印されたものがあるからか。
 気持ちなんて後付けで、本当は使命感や義務感が殆どで。
 たまには日頃の仕事を忘れ、好きなところに行って息抜きしたいと思うのも、道理なのかもしれない。


 こんなふうに考えたくなかった。相手に対して失礼だ、と、頭では否定できるのに。
 気持ちは荒れていくばかりだ。









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