夜の終わる音がした ...... 08
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 top






 項から耳朶、肩先と徐々に範囲を広げながら、唇で辿ってゆく。ときには舌を這わせる。胸を包み足の間へと忍ばせた指からも、力は抜かない。
 そうやって触り続けていれば、手の中の相手は時々、ぴくんと肩を揺らし、少し息を乱しては堪えるように呼吸を細める。
 薄暗く灰色に沈んだ部屋の中、相手が垣間見せる含羞の仕草の初々しさに思わず頬を緩めずにはいられなかった。
「だがのォ……そもそも」
「?」
「何故、女に変化しようと思った?」
「……だってさ、エロ仙人てば……女の人相手の方が絶対上手そうだもん」
 問われ、答える声は、困惑を滲ませたまま、どこかたどたどしい。
 この悪戯がいつまで続くのか、ナルトの意識はそちらへ傾いている。が、少し遅れて、こんなことをされながらそんな答えを返すのは、ただの誘い文句になってしまっていないかと気付く。だって、こういうことをして欲しいから女に変化したのは、他でもない自分だ。
 そう自覚してしまえば、ますます恥かしい。誤魔化すように反問した。
「何で、そんなこと聞くんだ? ……だいたい、男のまんまじゃ嫌だろ」
「別に嫌じゃねーがの」
「どうして」
「おまえは特別だ」
 意外な答えが返って来た。驚いて、思わず目を上げる。
 間近に視線が合った。
 相手の鋭い反応に、自来也も目を見開いた。
 が、ナルトの真剣な疑問の表情に気が付くと、やれやれ、と溜息を吐く。
「バカ、ここは喜ぶところだろーが」
「あ……」
 額を指で小突かれ、いてっと声を上げる。
「……だって、なんかさ、なんかさー……」
「何だ」
 戸惑いの表情を少しだけやわらげて、ナルトは口元を緩めた。
「オレにとって、エロ仙人はトクベツだけどさ。エロ仙人も、オレのことを、そういうふうに言うのは……なんか、すげー不思議だ」
「……全然。不思議でも何でもねーだろ」
 つい今し方、さらりと特別だと言った口なのに、相手からいざ同じ答えが返ってくると、一転、猛烈に照れ臭くなる。
「今更、当然だ」
 短くそっけなく、言葉は喉に引っ掛かった。
「そっか」
 やはり手を出すのと口に出すのとは、勝手が違うようだった。決まりの悪さを取り繕って、くしゃりとその金色の前髪を掻き上げてやれば、
「嬉しいってばよ」
 腕に抱いたその子は素直な一言を漏らして、切ないような笑顔を覗かせる。
 どうしよう、可愛い。昂る感情に反応してじわりと下腹が疼く。衝動のまま、抱きしめている薄い背中を掻き抱いた。胸と胸を擦り合わせれば、その柔らかい感触はとんでもなく気持ちいい。



 強い抱擁が心地良くて、ナルトはされるがままに身を任せた。
 膝は更に割り開かれ、両足で腰を挟まされる。両手を首に巻き付け、四肢を絡めしがみつく格好になった。背中から肩をしっかりと抱き寄せられ、身動きが取れない体勢に拘束されたことを自覚した途端、合わせた胸の間に大きな手が侵入してきた。
 柔らかい肉を、長く節ばった指に鷲掴まれたかと思うと、そのまま形が変わるほど強く揉まれる。
「い……っ」
 あまりの唐突な強引さに、身体を強張らせた。痛いくらいだった。
 どうして、と思うそばから、次の瞬間にはその頂上の、固さを帯びて立ち上がっていた部分を指の間に挟まれてしまう。
「ひ……ぁっ」
 たまらず声を上げ、身をよじった。
「ゃ、やめ……っ!」
 摘み上げられる。だけでなく捻り上げられる。本当に酷くいやらしいことをされているという事実に打ちのめされ、混乱した。
 それなのに気持ちいい。痛くないわけではないが、痛みだけの感覚とは全く違う。
(……っ!?)
 じん、と胸を刺さす痺れは、背骨から下腹の底まで落ちてゆく。心地良さに変換される。それは今まで経験したことのない感覚だったので、何が起こったのかわからないような状態に陥り、ただ驚くしかなかった。
 咄嗟に逃げを打つが、捕えられた身体ではやはり思うように動けない。と言うより、力が入らない。普段と違い過ぎる自分の力のそのあまりのか弱さに、ナルトは愕然とした。
 確かに、好き好んで、自らこの身体に変化した。望んで、こういう形の楽しみを相手に提供した。が。
(マジでこんなこと……すんのかよ……!)
 勿論、自来也がそれを享受しないわけがない。彼は今まさに、抵抗を試みて弱々しくもがく相手を腕の中に閉じ込め、その感じやすさと柔らかさを存分に堪能しているのだった。
 指先は容赦無く捕えたものを離さず、可愛がり続ける。
「あ、も……っ」
 感じるまま身を打ち振るい、声を漏らす。頭に血が昇った。
 訳も分からない興奮にかぁっと体温が上がって、手酷さを増す仕打ちにナルトの全身の神経は弾かれる。
 その急激な変化を、まるで予測していたかのようなタイミングで、再び唇を塞がれた。
(……っ!) 
 有無を言わさず、吸い上げられる。唇で歯の間をこじ開けられ、強引に舌が忍びこんできた。舌を絡め合わされ、かと思えば喉奥まで差し込まれ、逃れようもないまま、あっというまに荒々しい口付けを始められてしまう。そのまま、上顎の裏を思わぬ強さで舐め上げられ、
(うぁ……っ!!!)
 それは、目の裏に火花が散るかと思うほどの、凄まじい衝撃だった。気持ちいい。ホンモノのキスだ。こういうことは、本当は大人にならないとしてはならないような、何もかもが初めての自分には知りようのないような、そういう未知のものだった。これから自分は、そういういけないことをされてしまうのだ、と実感する。
 息継ぎのために少し離れ、また入ってきたかと思うと、今度は舌の裏側や頬の内側まで縦横無尽に舐められる。
 頭の芯がくらくらした。この後この身体に、にどういう仕打ちを為されるのか如実に知らしめる、深い舌使いだった。
 大きい舌に包みこまれ、その広さ、与えられるの施しの威力にただただ恐れ慄く。
 こんなに場慣れて、熟練した巧さで、口の中だけでなく、もし他のところも舐められたら、自分は死んでしまうのではないか。
 口内を蹂躙されながら、呆然とするしかない。
 だが、その予想は間を置かず現実のものとなる。唇を離され、我に返った。









禁・無断複写転載転用 リーストアルビータ