夜の終わる音がした ...... 05
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 するりと入って来た指にいきなり掴み上げられて、最初は何が何だか分からなかった。
 腰が抜けるほど驚いて、とにかく悲鳴を上げていた。
「ぎゃー! 何すんだ!」
 何かの事故が起こったとしか思えない。
 そう信じたい。
 そうでなければこんな、酔っ払っている時でさえ絶対にやりそうもないことをしてくるはずがない。
 とにかく考えられないことだった。
「おう、済まんかったの……気付かずに」
「な、な、」
「これはかなり溜まっとるのォ、お前」
「な、なに、す、この……エロ仙人! マジで!」
 動顛する。どう対応いしていいかが、まず分からない。現実味がなさすぎて、こういうことを自分にしている人物と、されているその行為とが、まったく噛み合わなくて、これは夢かと。
 いやいや、まさかこの人がこんなふうに自分に、と言うか、男に、手を出すなんて考えたこともなく、意外もいいところで夢にも見ないだろう。
 ナルトの状態に気付いた自来也の行動は、あまりにも素早かった。きっと、何も考えずに、頭で判断するとか全く無しに、ただただ獲物を捕えるように本能で手を伸ばしてきたとしか思えない。
「いいって……っ、いいから、離せ……ってば……」
 だが、感じやすいところを指の関節の内側で上手く握りこまれ、ナルトはみっともなく腰を折って蹲るしかなかった。
「触るなー!」
「や、一人で困っているのに気付いておいて、知らぬふりもないだろう」
「なんでっ!? 知らない振りしろっての! 一人でトイレ行くから、構ってくれなくて、い、」
 全力を振り絞っての口答えを、だが簡単に背中から組み伏せられ、更に揉みしだかれてしまう。
「や、う、動かす、な……指……っ ひ、ぁ……っ」
 声が裏返る。自分でも聞いたことがないような声音の悲鳴が上がる。
 とんでもない気持ち良さだった。こんなのは知らない。自分の指でする刺激の何倍もの心地良さを、突然に与えられてしまう。
 抵抗なんて、とても出来ない。
「やだ、も……っ」
 鞭打たれたように全身を跳ねさせ、背骨を撓ませた。
「いい機会だ」
「何……が」
 その問いには、言葉では答えなかった。手の内に捕えたものをあやしながら、髪に、耳朶に、首筋に唇を這わせる。そういう触れ方をすることでこの先の続きを予想させて教える。ナルトは肩を震わせた。
「一人でやるよりは、ずっと気持ち良くしてやれるぞ。専門外だが、一応得意分野の内だ……自信はある。任せろ」
「いらねェよそんな自信!」
 掻き口説いているが、内容はどうしようもない。
「せっかく二人でいるんだから、そう言うなっての」
「そういう問題じゃ、ねーって……っ」
「ワシでは嫌か、ナルト。信用出来ないか?」
「……っ!」
 突然で無体な行いの、名目がこの言い草。
「んだよ……ソレ……」
 途端、ぞわぞわと背中から駆け上がってくるもの、いきなり目鼻の奥からつんと込み上げてくるもの、様々な感覚に一気に襲われる。ぐっと堪えるが、もう身体のどこにも力が入らない。眼を濡らすものは、ナルトの意思にお構いなく、じわりと溢れた。
「ひ、卑怯だってばよ……っ!」
 あっという間に涙声になってしまう。
「そんなふうに言われて、こんなこと、されたら、オレ、嫌だなんて言えねぇじゃねーか!」
 いつも、厳しく鍛えるために伸べられる手だ。時折、褒められる時や宥められる時、頭に置かれてくしゃりと髪を掻き回してくる。その指が、好きだった。
 元から、慈しむために伸ばされる手を振り払う気は、こちらにはさらさらない。むしろ常に待ち望んでいる。
(知ってるくせに)
(知らないなんて言わせねぇ)
「オレが、そんな……あんたのこと、まるで信じてねーみたいに言うな! 勝手に」
「ああ、そうだな」
「それにオレ、お、男……!」
「関係ない。嫌じゃないなら任せてみろ」
 こちらの言うことを聞く気があまりないようだった。こうして事に及んでしまった手前、もう後戻りは出来ないとでも思っているのだろう。どう反論しても軽く躱され、とても途中で止めてもらえそうにない。
 熱い体温に無理矢理包まれて、あちこち緩み始めて力の入らない身体では、いくらじたばたもがいても、どうにも逃れられなかった。さすがに慣れている。いつもこうやって相手に触れているのか。女のひとだけじゃなくて、男にも?
 そんなこと、全然知らなかった。
 下半身の着衣はとっくの昔に剥かれてしまい、素早い指は露わになった内腿を割って入り込み、巧妙に動いて握り込んではナルトの抵抗を奪う。
 痛みのようにきつく刺す快楽を与えられ、悲鳴を上げた。
「や、ぁ……っ!」
(どうすんだ、このまま犯されんのか、オレ)
 焦る。背中に圧し掛かり、押し潰してくる身体の重さは心地よく、細やかに這わされる唇には神経を弾かれる。全身を抱き寄せる強い腕、撫で擦り続ける手の平に、抗う気力は簡単に削がれてゆくばかりだ。
 首筋にかかる息の熱さも、何もかもが、だんだん気持ち良くなってきてしまい、もうどうにでもなれ、とさえ思えてくる。
(だって嫌じゃねーんだもん……)
 だけど、このままでは。
 さすがに怖い。大きな手が大腿と尻の肉に掛かり、足を開かされる段に至ったのを感じ取って、身を竦ませる。
 何か、何かいい手は。
「ま、待って……待って!」
 突然、ナルトは激しく抗い、渾身の力を振り絞って、自来也の身体の下で身体を反転させた。 
「じゃあさ、じゃあさ! オレが女の子に変化した方が都合がいい?」
「……」
 真上からまじまじと視線を合わせ、そこでやっと自来也は我に返ったのだろうか、相手が了解を得ようとしている内容をようやく理解して、思わず身を離した。
「なっ、な、なにを……っ」
 次の瞬間には、ナルトは目の前で素早く印を結んでいた。あっと思ったが止める間も無く、ぽんっと空気を破裂させる音を立て、幻の煙を巻きつけながら、少年は見覚えのある素晴らしいプロポーションの美少女へと変化してしまう。
「……!!!!」
 あまりに好みな娘の裸身を身体の下に敷き伸べる格好になり、自来也は暫し自失呆然とした。
「お、おまえナルト、何やって……自分で何してるのか、分ってるか……?」
 正気か? と、問い質す。
「エロ仙人こそ……」
 怒りに満ちた、鋭い反問が返ってくる。睨み上げる眼光は青く鋭く、強烈に問い詰める口調は確かに他ならぬナルトそのもので。
「オレが! どんだけアンタのこと好きか、分かっててこんなことオレにしてんのかよ……っ!?」
「……っ」
 その告白は、いきなりの平手打ちに等しかった。
 脳が言葉を理解して、時が止まる。 









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