ナルトはこの虚無と決別するために、未来へと邁進しているのに。
彼の身体と感情は、こうして簡単に意識の制御を外れてしまう。
感情のコントロールは、彼が持つ巨大な力のコントロールに結び付く。だが、それが分かったところで、実際に暴走を抑止出来るかどうかは全く別の問題だ。
その不安定さ。
ただでさえも足りていないものを更に削り取られ、奪い去られるのではないかという恐怖が、常に彼を内面から脅かし、追い詰めている。もし琴線に触れることが起これば、それが大きな怒りの引き金となる。
その感情の起伏を、どうにかして宥めたかった。少しでも穏やかな心で暮らせるように、もしあるものならばその方法を自来也は模索する。
この子が幼少の頃よりある程度満たされた人生を歩んでいたならば、きっとこんなことにはなっていない。
大きな欠乏が、ざっくりと開いた傷口のようにそこに在るのを感じる。
もし欲しいと言うのであれば、思う存分に充たしてやりたかった。
(こんな方法しか)
ずっと失敗だらけだった自分に、最善のやり方なんて分らない。
手を尽くして、これが、ありったけだ。
(ナルト)
後悔はさせないから。
「あ、は……ぁっ」
細さを残す腰を跳ね上げて泣きじゃくる、その様子の可愛らしさに駆り立てられるまま、骨盤の奥へ、縋り付いてくる肉の襞を振り解き、捻じ込んでは、占領したその部分を蹂躙した。
「ひ……ゃっ」
指の間に余り零れるほどの柔らかな胸を、爪を立てるほどの強さで執拗に揉みしだく。守るように抱き寄せては、好きなように吸い上げ、白い肌へと跡を付けてゆく。
しなる背中。
決して乱暴にならぬよう、しかし、大人の身勝手さを知らしめる程度には威圧しながら、狭く熱く熟れた果実のように煮崩れるその部分を使う。旺盛な要求を重ねる身体へ、それ以上の貪欲さで応える。
愛おしさに溺れながら、理性を手放してゆく。
想いの丈をその中へと注ぎ散らす。
疲れは、無い。
望んで手に入れた最高の気持ちの良さが、全てを回復させてゆく。
今はただ心地よい気怠さを、もう少し……少しでもいいから長く感じていたかった。
ずっとこうしていたいと思って、だから相手が身体を離そうと動いてもすぐには許せずに、行かないでほしい、と、ナルトは一言で自来也を引きとめてしまう。
「まだ離れたくねーよ……」
自来也は苦笑を浮かべて、改めてしっかりと抱き締め、肌を合わせてくれた。それから、首筋に落ち掛かる金色に輝く髪のひとふさを手に取って、唇を寄せる。
「足りないのか?」
「ん……」
素直に頷く。
「もう一度、したいか」
ナルトは逡巡したが、やはり頷いた。
だがその表情は、眉間を寄せた辛そうなものに変わる。
「こら、何でそういう貌になる」
「だって」
いくらなんでも欲しがりが過ぎるのではないか、と怖れたようだった。
そんな顔を見たくて言ったわけではない、と自来也はその頬を指でなぞる。
「じゃあさ、じゃあさ。次は……いつ……」
「ん?」
「次は、いつ、こうしてくれんの」
「決まってる。おまえが望む時に、何時でもだ」
それは、ナルトが必要としている通りの答えだった。彼が必ずそういう答えを返してくれることは、分かっていた。
分かっていたのに、訊かずにいることが出来なかった。
「……それってさ」
「なに?」
「エロ仙人にとっては、気の向いた時に手ェ出せばすむことかもしんねーけど」
自来也は小さく首を振って微笑む。そうではない、とナルトの捻くれた言い方を諫めて、表情一つでやさしく包みこむ。
彼はほんの少しの言葉と動作で、簡単にナルトの中の不満や不安を解消する。
目を合わせていられなくなって視線を落とした。
「オレには、いつだって、足りねーんだってばよ……」
ぐすっと鼻を啜りながら、泣きごとのように相手を詰る。
「どうすりゃいいんだよ、こんな甘え方、教えるから……!」
途方に暮れて、弱音が零れた。
だが相手の態度は普段通り、泰然としたものだ。
「不安になることはない。ワシはいつでも傍にいる」
深い声が、触れ合わせた肌からも直接響いて聞こえる。
「……」
こくりと頷いた。
それホントかよ、と確かめたくなる。絶対だろうな? と約束をねだりたくなる。
だが、どちらも軽々しく出来ることではない。
素直に頷いてみせるだけで……精一杯だった。
この秘密の関係は、修行の旅が終わるまでの期間限定のものだ。わざわざ言われなくても、きっとそういうことなのだろう。察しはつく。
師匠であり、父親代わりでもあり、それこそ家族というもの全てにも匹敵するような大きな存在でありながら、恋人役まで買って出てくれたこの人は、優し過ぎる、と。ナルトは思う。
(やはり、足りてはいないのか)
彼には自覚もあった。その上で、一人ではどうにもならぬ部分を、どうにかして欲しいと頼られている。
応えなければならない、と強く思う。
普段、思い出すこともあまりないかもしれない。が、記憶の底にあるだろう凍てつく暗闇はなかなか消えないに違いなかった。どれほどの苦労を重ねてきたのか、今まで積み重ねてようやくその手で掴み取ったもの、せっかく得たそれらを、また失うのではないかと怯え、取り戻すことの出来ない自分の弱さに苦しんで。
嵐の間はこうして過ごすことが出来ても、天候が回復して日課が再開すれば、またこの子は無茶を繰り返すに違いない。
今はまだ、自来也に操縦させてくれる域にはあるが。
そう遠くない将来、彼は大人になり、自分の言動を全て自分で決め、過酷な運命を独りその背に負わなければならなくなる。
(一体いつまで守ってやることが出来るのか)
(それまでに、どれほどのことを教えてやれるのか)
この子は自分にとって、最後に残された希望だ。
何もかも失ったはずの自分を、ここまで回復させた。
全てを捧げても惜しくない、この身を擲って守るのに値する存在。
彼がこの先を生きていくのに必要だと思うものは、自分が与えられるものであれば、何もかも持たせてやりたかった。全部を授け、譲り、それで補完出来るものならば、何もかもいっぱいに、充たして。
だが、それでも、この子にはきっと足りない。
しがみついてくる腕の力が弱まる気配は全くなかった。
それ以上の強さで抱き締めて返してやる以外に、方法もなかった。
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