どのくらい時が経ったのかも分からなくなっていた。
ナルトは悦楽に埋没させていた意識を、徐々に取り戻した。
頭の中は朦朧としているが、身体は自由になっている。
いつの間にか、厚手の敷布に横たえられていた。自来也が隣で解いた縄をまとめているのが見える。束ねられたそれは間もなく小さな爆発音と煙と共に畳の上に拡げられた小さな巻物の中へと消え失せた。
おもむろに振り返り、ナルトの意識が戻っていることに気付いてこちらへ手を伸ばしてくる。動かずに、その手に触れられるのを待った。
仕切り直すように、再び身体の下へと引き込まれる。
「おまえ、何回いった?」
「……んなこと、覚えてるわけねーだろ……いちいち数えるかってんだ」
むっと唇を尖らせ、頬に血を上らせた。恥ずかしさに視線を逸らす。薄暗い部屋の中で、裸になった相手の肌を目にするのも久しぶりな気がして、気まり悪いことこの上ない。
覚えてないというのは本当だ。施された股縄に歓んで何度昇り詰めた。もう充分だと思っても、次々と襲い来る快楽の波に浚われるまま自慰を続け、長い間溺れた。自来也はそんなナルトを膝の上で構いはしたが、身体を繋げてはくれなかった。
「まったく……堪え性のない子だのォ」
ふふ、と笑み崩れる。本当のことをずばりと言い当てられ、さすがに腹が立った。この身体をそういうふうに仕込んだのは当の本人なのだから、言われる筋合いがない。
「じゃあどうしろって言うんだよ!」
「わかったわかった」
怒って目の前の胸や腹に拳と蹴りを入れるが、そんな形ばかりの抵抗など、すぐに宥めすかされてしまう。じたばたと暴れる身体を自来也は簡単に組み敷いた。
何度目か分からない口付けが始まる。
唇での施しの合間を縫って、ほら、と促される。
「脚を上げろ」
言われるままに膝を折って開き、上げた両膝から先を相手の腰に絡み付かせた。
(ああ、やっとだ)
ほっと息を吐く。この宿に泊まることになってから、昨日も今日も一日中待って、やっとだ。
足の間を探られながら、真上にある相手の首筋へと両腕を回す。自分の胸を相手の胸に擦りつける。ようやく欲しくてたまらなかったものが貰えるのが分かって、盛大にねだり始める。
ずっと零れて溢れるものが途切れなかったそこに、今度こそ縄ではない、生の指を這わされた。
慣れた手付きで割れ目を探られる。すぐに、その部分が既に準備を整え、事前の施しなど少しも必要ないほどに濡れ滴っていることを知られてしまう。
待ち侘びしく肉襞を潤わせている様子に、自来也は喉奥で笑った。指を一本、二本と這わせ、粘液を絡ませながら力を加減し、関節まで忍ばせてみる。
「待ち兼ねたか」
「あ、も、早く……っ」
焦れったさのまま腰を絡める仕草で先を請い願った。
「そう急かすな」
息を多く含んだ低い声で、鼓膜に吹き込まれる。宥め制するようなその台詞とともに、濡れた肉を掻き分ける指に沿わせて、いきり立つものがあてがわれた。
性急な動作になった。
「あ、」
間を置かず、芯を持ち硬くぬめったものが、雪崩れこむように一気に押し入ってくる。
「い……っ、ぁっ」
抗ういとまを僅かも与えられず、狭くて細い肉の管は、ぐずぐずと侵された。中へ、更に奥まで。熟れほぐれている柔らかな内側へと、強引に踏み込まれる。
衝撃に、思わず呻き声を上げた。
「う、……あ、ぁんっ」
どっと汗が噴き出る。
(ああ、やっと)
(嬉し……ぃ)
受け入れたものの熱さと大きさに感じ入ってもがいた。
さっそくのように二人の隙間で潤沢に滴り、混ざり合い始める体液のいやらしさが、ナルトの脳から理性と思考を綺麗に奪い去ってゆく。進入されることに慣れているその部分は、本人の意思などお構いなしに、さしたる抵抗も無くぬるりとそれ吸い込んで、やわらかく包み込む。
包み込んで、ぐっと捕まえる。
「く……っ」
一息に刺し貫いたものの、そのまま即座に食い締められることになって狼狽したのは、自来也の方だった。
「……ナルト」
「は、ぁ……っ」
具合の良い角度を調整する隙もなく、捉えられてしまう。
敷き延べた身体は、こんなことにまでその才能を発揮する必要など無いのに、やたらと物覚えが良かった。教え込んだ通りに器用に腰を捻って、咥え込んだものを元気の良い弾力で柔らかく食み、離さない。
制圧されることに悦んで、ナルトは息を荒げて小さな声を弾ませながら自来也の背中に手を伸ばす。その指は、白獅子のたてがみのように豊かに流れ落ちる銀色の髪の間を、器用に潜り抜け、背や肩の骨や筋肉の在り処を探り、爪を立てる。
そうしながらも、内側では濃厚に肉を絡みつかせて相手を歓待する。
まだ幼さを色濃く残しながらも、女に変化したこの身体は、すでに男を満足させるすべを充分に修得していた。
「……なぁ、……エロ仙人……ってば」
呼ばれてもすぐには返事が出来ない。慎重に息を吐いて、ようやく声を絞り出す。
「何……だ」
「ん、だいす……き」
(こいつは、)
脳髄を直撃する掠れた声。無防備に差し出される思慕。
とても耐え切れるものではない、と思うところを、ギリギリで堪える。
体温は急激に上昇してゆく。ナルトがもたらす悦楽の威力は、いつもより数段凄まじい。
(虐め過ぎたな)
この分では、こちらもそれほど長くは持ちそうになかった。歯噛みしつつ、温かく潤む襞を掻き分けては埋め込み、呈される悦を貪る。
「あぁん、や、やぁ……っ」
挿し込まれ侵入してくる強引さに、溢れて上がる声は止まらなくなった。腰の深くを抉るそれのことしか考えられなくなっていく。
(も、ぅ、すげ……、コレ、す……き)
何度も臼を挽くように擦りつけられ、感じやすい神経の集まる箇所を狙われては、細かく揺さぶられる。
(だい……すき……)
突き入れられては引き抜かれ、堪らず身悶えると、力任せに押さえ付けられ制された。気持ちが良過ぎて、頭の中が真っ白になる。気が狂いそうだ。わけが分らない。
それなのに、相手がここの狭さの弾力を内側からじっくりと味わい楽しんでいることだけは……感じ取れる。
「……ぁ、は……んっ」
有り余るほど与えられる悦楽に苦鳴を漏らし、嬌声混じりの息を散らしながら、ナルトは全てを委きってされるがままに身を揺らす。
「ね、もっ……と」
抑え込まれながら、尚も、稚く縋りついて抱擁をせがむ。
(そんなに……欲しいか)
こんな真っ直ぐで遠慮がなく、混じり気のない欲しがり方を、自来也は他に知らない。
いつも、この純粋な慕情に圧倒される。
その底には、満たされることのない不足が、消し去ることのできない寂しさが、今だに色濃く残存して根を張っているのではないかと。
もしかしてこの餓えには底が無いのではないのではないか、と。
その深さは、時折、彼を慄かせ、焦らせた。
(どうすれば埋めて満たすことができる?)
涎を垂らして歓喜に震え、両眼を揺蕩わせて、ナルトは今この瞬間に享受できる幸せを、ありったけ、最大限に摂取しようと、狂ったように貪り続けている。
下瞼の縁を赤く染め、うっすらと涙の膜を浮かべて。
覗く瞳のその青さに惹き込まれながら、自来也はその深淵を食い入るように見つめた。
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