空の色を埋める ...... 04
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 うとうとと浅い眠りに落ちながら、宥めるように長い髪を撫でる指先を感じる。抱き締められて、体温に身を預ける。
 大きな手の平が膨らませた胸を包みにやってきても、そのまま多少キツめにきゅっと掴まれても、ナルトはそれがどんなに気持ちいいことかをもう知っているので、安堵の息を漏らしただけだった。瞼や鼻筋に唇が降ってきて、腿や尻を抱え上げられるのは何となく分かったけれど、眠る自分を気遣い、慈しみながら触れる動作は、ますますナルトを安心させるだけだ。
 完全に身を任せて、反応を返すことすらしないで、意識を漂わせながら心地よさだけを貪る。
(極楽極楽)
 何もしなくても自来也は優しい。
 口元を綻ばせて、意識を埋没させてゆく。


 しばらくそうして、触られるままになっていたが、さすがに足を折りたたまれ、腕の位置を変えられて後ろ手に組まされ、違和感を覚え始めた。
(んあ、なんだぁ……?)
 やがて、身動きが取れなくなっていることに気付いて。
 

 そこでようやく目が覚めた。


「な……っ」
 驚愕のあまり、言葉を失ってしまう。
(な、な、な、縄!!??? ナニこれっ!!!)
 二の腕に、胸に、腰に。だけではない、腹や腿、足首。幾重にも巻きつけられ結び目で枝分かれした縄に、目を剥いた。
(はあぁああ!!??)
 両腕を動かそうにも、いつのまにかきっちりと後ろ手に縛り上げられて全く動けない。ぎし、と撚り合わされた麻が鳴る。それは、変化させた柔らかい身体のあちこちに食い込んで、胸などは、膨らみの形が歪むほど固く巻き上げられていた。
 とんでもないことになっている。しどけないとか、淫らとか、そんなありきたりの表現で収まる格好ではない。ガチガチに緊縛されたまま、ただただ呆然と蹲った。
 肌を撫でる視線の気配に振り仰ぐと、へらりと笑う師匠と目が合う。途端に、かっと頭に血が昇った。
「な、ななな、何だこれっ!」
「おう、あんまり急に動くなよ」
 動くと縄の締め付けがキツくなるぞ、などと、さしあたってのような忠告を受け、ますます怒りが煽られる。
「なんでこんなことになってんだよ!!!」
 思いっきり喚いた。
「勝手にしろと言ったのはおまえだろう」
「だ、だからってどーして! 当たり前のよーに普通に! なめした麻縄とか出てくんだよっ! おかしーだろ!」
「アホ。縄も基本の忍具の一つだろうが」
「そういう問題じゃねェ! この縛り方は何だ! プロか!?」
「おお、おまえにしては察しがいいな。実はワシは……一部の遊郭では名の知れた縄師でもある!」
「な、なんだとーーーッ!?」
 とんでもないことを言い出した。開いた口が塞がらない。そんな暴露を聞かされるとは爪の先ほども予想していなかったから、さすがに愕然としてしまう。
「あ、アンタ……すっげーバカだろ……こんな特技……ぜんっぜん威張れるもんじゃねーってばよ……」
「ふふふ。何事も取材だ」
「なんでもかんでも、取材で済ますな!」
「まぁ、おまえにこの手の技術が入用な種類の任務が回ることは、おそらくないとは思うが、忍が担う仕事には色々ある。これはその一端を知る機会だと思って……」
「なーにが、」
 もっともらしいことを言ってんじゃねぇ、という反駁の言葉は、だが、口から出ることはなかった。
「……っ!!!」
 あらぬ刺激に、ナルトは意味を為す発音を奪われる。
 締めつける麻縄が、その身動きに応じるように、突然、その食い込み加減を強くしたのだ。
「……ンだよ……これ……っ!」
 力なく畳に倒れ込んだ。
「フン、あまり動くと墓穴を掘るぞ。それは、そういう縛り方だ」
「し、信じらんね……ぇ」
 呼吸を乱し、畳に頬を擦りつけながら、しかし抵抗の意思表示を止めることはなく睨み上げる。
「この、クソエロ仙人! マジでやらし過ぎ! えろすぎ!」
「おまえなぁ、毎日人をエロ仙人呼ばわりしておいて、今更それはないだろ……」
「だって、こんな……っ、……ぁ、」
 息を飲む。ほんの少しの動作にも、縄はまるで意思を持っているかのように反応して、刻々と肌を刺す。
 それは、単なる拘束の痛みではない未知の刺激へと変換され、背骨から脳髄を瞬く間に駆け昇る。
「やだ、もう……これ、はずして、く」
 危機を感じ取り、思わず懇願が口を付いて出るのを、止められない。
「まだ早い」
 勿論、にべもなく却下されるだけだった。
「楽しみ方は、これから教える」
 そう言っておきながら、しかし手を出してくる気配はない。先程から一貫して自来也は、助けを求めて身悶えるナルトを目を細めて眺めるだけだ。
(勘弁してくれよ)
 息を細くし、出来る限り急な動作にならないように努めながら、そろそろと両足を絡めて膝を閉じる。
 丁寧に掛けられた縄は、少しの隙も無く身体の隅々を捕えていた。いつも自来也が好んで触れる部分は無防備に露出させられ、掴まれれば力の抜ける箇所は、余すところなく締め上げられている。
 それらが、どれほど抜かりなく計算し尽くされた技かは、この状態を顧みればおのずと知れた。
 徐々に息が上がってゆく。どんなに動くまいと身を竦ませても、足の間へきつめに渡された縄が、容赦なくあらぬところへ食い込んでいくのを止めることはできなかった。感じやすい要所要所に結び目でつくられたこぶがあてがわれ、その縄目の無骨な硬さは、ナルトの神経を思わぬ速さで食い荒らしてゆく。
(さ、サイアク過ぎンだろ、これ……)
 逆らい切れる訳がない。あっという間に、そのことしか考えられなくなってゆく。心地良さとして感じ取った時点で負けだ。
(……もう、駄目だ)
 また、隠しようもなく全てを見られてしまうのだろうか。自慰の強制は初めてではなかったが、こんな形で、自由を封じられた状態でさせられたことは今までなかった。きっとまた始まりから終わりまでをつぶさに観察されてしまう。
 見られているという途方もない恥かしさが、何よりも自分を煽ることをナルトは知っていた。
 おそるおそる、腰を捻じる。
 食い締めてくるものから得られる気持の良さに、神経を傾ける。
 そして、ゆっくりと乱れ始めた。









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