バースデイ ...... 06
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 片手の掌を合わせ、互いの五指を深く組んで拘束する。もう片方の手は下腹から足の間へと延ばし、手探りで目的のものを捕らえた。
 捉まえられてナルトは息を飲み、小さく声を上げて大腿を引き攣らせる。まだ柔らかいものが手の中でぴくりと震えるのを感じながら、自来也は指を折り曲げてその大事なものをそろりと握り込んだ。
「ん」
 組み敷いた身体はあっという間に熱を持ち、ナルトは鼻声を上げて背をしならせる。その声に誘われるまま、感じやすい筋を優しく辿り、擦り上げ、指の関節の内側で揉むように転がしてやった。
「あ、やめっ」
 強制的に与えられる快楽に、ナルトは膝を折り曲げてもがき、制止の声を上げる。
「だ……めだってば……ッ」
 自来也はその抵抗を制御するために、肩口に立てる歯に少しずつ力を加えた。
「や、ぁっ」
 首を振ってもがく度に、ちくりと刺すように軽く牙を立てられることになり、ナルトは覆い被さる大きな体の下で身を強張らせ、悲鳴を上げては脱力する。そうする間にも、捕えられたものは絡む指に慰められ、執拗にあやされて火照り、芯を持ち始める。
 そのまま、一番敏感な先の部分を指の腹で細かく悪戯されてしまい、為される指技の余りのいやらしさと、比例する気持ち良さに身悶えることになった。
「や、だ……ゃ、め」
 自由な片手で無体な指を引き剥がそうと試みるが、どうにもならない。もう片方、がっちりと指を絡み合わされて拘束された方の手も、勿論びくともしない。
 そこでやっと気付く。
 この手の拘束は、変化の印を結ばせないための拘束だ。
「何で……っ」
「今日はこのままでいい」
 問えば、即座に答えが返ってくる。言われた意味を悟って、ナルトは凝然と目を見張り、天井を仰いだ。
 次の瞬間、渾身の力を込めてじたばたと抵抗し始める。
「よ……よくねってばよ!」
 これまで男の身体のまま犯されたことはない。だが、今日の師匠はそれが欲しいという。
「エロ仙人ってば! マジ、だ、ダメだって……!」
 相手好みの女体を追及して術の精度を磨き、閨房の技を指南されるのは、それがこの先いつ何の役に立つかはさておき、無意味ではなかった。何よりナルトには、無尽蔵に愛されて可愛がられる時間が必要だった。今まではそうしてきたのに、長年女好きで鳴らしてきた相手が趣味嗜好を曲げてまで、同性同士の行為に及ぶ必要があるとは、どうしても思えない。
 ありのままの自分を欲しいと言ってもらえるのは悪い気はしないが、だからと言って、
(だって絶対にスッゲー痛いってばよ! 無理! マジで!)
 十中八九、明日の修行に差し障りが出るだろうことこの上ない。双方の負うリスクを考れば、嫌がって回避出来るものなら永久に回避したい事態だ。
 どうにか落ち着かせて考え直してもらわねば。
「な、ホントに、待って……っ」
「黙って言うことを聞け」
 だが、無情にもぴしゃりと叱られ、ナルトはぎしりと背筋を固まらせた。
 目を瞠る。
 相手の本気を感じ取って、息を殺す。
 しかし、怖いものは怖い。このまま身体の力を抜いて了承の意を伝えることは、どうしても出来そうになかった。どうすればいい。心臓の鼓動は早鐘のように速度を増し、細くした息はますます荒くなる。身を縮めたままじっとしていると、やがて焦燥心が身体の震えとなって表面化した。
 自来也は我に返ったように、体を起こす。
 目が合った。

 
「……すまない。どうかしていた」
 無理やり口からセリフを押し出して、彼は辛そうに目を閉じた。
「今のはナシだ」
 呆然と見上げるナルトの乱れた襟裾を素早く直し、身体を離してしまう。胡坐を組み直し、自分への苛立ちを呑みこむように前髪を掻き上げながら、大きくため息をついた。そして、がっくりと肩を落とす。
 当面の危機が去ったことで、ナルトも一気に脱力した。詰めていた息を吐き出し、手足を畳の上に投げ出す。身体の震えも止まった。それから、傍らで悄然と肩を落としている師に目をやった。
 胸が詰まって痛い。情けなくて、息が苦しくなった。
 そんなふうに、項垂れた姿を見たかったわけではない。
 途中で身体を離されて、嬉しいわけもない。
 鼻の奥につんと込み上げてくるものを、慌てて堪えるが、遅かった。ああ、泣いてしまう、と思ったそばから吐く息は掠れ、下瞼に涙が滲む。
 酒を飲みながら彼が何をどう考えて思い詰め、結果この不覚の事態となったのか、ナルトには推し量りようもない。ただ、彼が言うことを聞けと言って一瞬露わにした、あの剥き出しの欲情だけは自分のものなのに、と噛みしめるだけだ。
 ナルトはむくりと起き上がった。するすると着ているものを全て脱ぎ捨て、変化の術の印を結ぶ。
 視線を上げる師匠の前で、彼はいつもやっているように長い金髪と碧眼白肌を持つ若い娘の姿へと変身した。そしてもう一度相手の膝の間に座り込みに行く。
 自来也は困ったように眉根を寄せる。濃い悔恨を綯い混ぜにした表情のまま、姿を変えたナルトを再び腕の中に迎え入れた。
 何をどう言えばいいのか、皆目分らない。互いに言葉を詰まらせて押し黙るままだ。ナルトも唇を尖らせ、拗ねた表情のままその胸元に顔を伏せた。
 暫く逡巡した後、口からこぼれたのは、率直な気持ちだけだった。
「なぁ、エロ仙人。オレ、エロ仙人のこと、ホントに大好きなんだってばよ……」
 本当は、大好きなんていう普段使いの一言には、この想いはとても収まりきらない。あまりにも大きな存在、かけがえのない人。彼が自分を望んでくれるからこそ、この行為は、尊敬や感謝を超えてどうしようもなく膨れ上がる思慕を、伝える手段に成り得ているのに。
「……悪かった。おまえが嫌がることを無理強いするなんて、ワシとしたことが」
 掛けられる言葉に、ナルトは伏せていた顔を上げた。
 見おろしてくる瞳は優しくたわんでいる。この、笑うと目尻に寄る皺が好きだった。
 それをこの距離で見ることができるのは、間違いなく、今の自分だけの特権だ。
「じゃあ、さ」
「……」
「続き、しよ?」
 自嘲を含み、痛みをこらえるような微笑みは、やがて崩れ、自来也はたまらなくなって吹き出した。
「まったく、おまえというヤツは……」
 愛弟子の身体を抱き締めながら、彼は喉奥を震わせて弱く笑う。
 きつい抱擁になった。
 いつまでも離せなかった。









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