バースデイ ...... 04
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 その後も、街の名所を観光しながら、気の向くままに食べ歩いて、祝いと息抜きに専念した。
 現在拠点にしている宿は、素泊まりの木賃宿だ。基本的に、市場などで手に入れた食材を使い共同の炊事場を借りて自炊することになる。
 が、隣接の定食屋が部屋代とは別料金で宿への出前に応じていた。今夜はそのサービスを利用して、特別に赤飯付きの膳を運んでもらえるよう頼んであった。
 日が暮れて夜になっても、そんな感じで二人は、引き続き誕生日祝いを満喫してはいたのだが。


(コイツ……赤飯食ったのも初めてか)
 届けられた飯櫃を開けた時の、あのぎょっとした顔。その後ほかほかと湯気を立てる中身へ向けられた、見慣れない気味悪いモノを見るような目付き。最初に口に入れた時の感嘆の声。
 間違いない。
 頻繁に襲ってくる悔悟の波をまた押さえ付ける。本当に、今更、己を責めても何も始まらないから。そう、責められるべきは独り暮らしさせることを決定した三代目……ではなく、そうさせざるを得なかった状況を作ったその他関係者各位……でもなく。
(アカデミーの給食はどうなってる!? たまには赤飯ぐらい……! ……出すわけねェか……)
 いやいや違う、そういう問題でもない。
(だから、例えばコイツは、一年に何百回と湯を沸かして麺を茹でるなりしたとして、そのうち一回でもメシを炊いたんだろうか)
(粥ならともかく、餅米なんて知る訳が無い)
 ようやく適度そうな矛先の方向を見つけ、自来也は辿りついたその落ち着きどころで苛々と苦虫を噛み潰す。
 他に、余所の子は普通に体験していて、この子に足りないもので、自分がやってやれることは何かないか? 見落としは、取りこぼしはないかと、目を皿のようにして探している自分に気付く。息子娘を持ったことはないが、子供を世話する経験は他の忍たちより遥かに豊富だと自負していた。
(焦るな、まだ時間はある)
 旅の道程は前半。折り返し地点はまだ先だ。
(修行も順調過ぎるくらい順調だ。ナルトは良くやってる。このペースだったら、計画より随分早めに里に戻ることも可能なくらいだ。どうにでも調整出来る)

 
 視線の先で、件の弟子は、満腹感に充ち足りて気持ち良さそうにころころと畳に転がっている。手すさびに広げているのは花札か。
 カードゲームの類は嫌いではないようだった。少なくとも双六や将棋や囲碁のような盤ゲームよりは興味を示す。戦略的な思考を遊びで鍛えるのは有意義な時間の使い方だ。もう少し真剣に取り組めば強くなるはずだった。
 賭けかるたや賭け麻雀を教えたらどうなるだろう、と想像しかけて、首を振る。悪戯好きで、思いもよらないアイデアで人を驚かせ呆れさせるのが上手い反面、少々潔癖で硬いところのある彼は、自分が若いことを理由に、そういう類の遊びについての好き嫌いはきっぱりしていた。
 自来也にはその辺りがもの足りなくもある。
(もうちょっと柔軟でもいいのに、変なところで子供らしくない)
(何故だ?)
 今のナルトが基本的に、自分が強くなること以外眼中に無い状態であることを度外視しても、その禁欲志向は、どこか偏りを感じさせるものだ。
幼い頃、身を守るため、目的を達成するためにそうならざるを得なかったのなら、きっと、かなりの失敗を積み重ね、そこから学び取って来たはずだった。


 例えば、と仮説を立ててみる。年頃の時分、人並みに、面子や独楽や流行りのカードゲームに夢中になった時期があったとする。不自由しない程度には与えられる生活費の使い方を指南した者など、いただろうか? ついつい玩具や菓子に金を使い過ぎれば、それはそのまま安いカップラーメンに手を出す切っ掛けにもなっただろう。周りの子供に与える影響を考えれば、他の親たちからも大いに不興を買う結果になったに違いない。
 親の干渉や監督が無い故の気ままさで、平均やルールから外れた行いをする度に、真っ先に、他の子たちより厳しく吊るし上げられたはずだ。その反発感から、彼の起こす事件や悪戯の数々は、大人たちが予測もし得ないとんでもない方向へとエスカレートしていったのだろう。
 想像し始めればキリがない。


 普通の担任教師であればとっくに匙を投げるであろうそんな状況を、しかしイルカは絶対に見捨てなかった。容赦なく叱責し、罰を与え、こんこんと説教を垂れては、好物を食べさせに連れて行く。
 あの子はそれをどんなに喜んだか。
 そんな日々を、一体二人はどれだけ繰り返したのか。


 何より、かつてイルカがそうやって手を焼いたであろう素行の悪さを、ナルトは、カカシや自分の前では、あまり見せないのだ。









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